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4.宮本智久さん(ショコラ カフェビストロ)

プロフィール

ショコラ カフェビストロ

 1974年熊本生まれ。94年大阪あべの辻調理師専門学校卒業。ハウステンボス(長崎)の調理部勤務を経て、2001年より8年間「マノアール・ダスティン」(東京・銀座)で修業。06年から08年は姉妹店の「アドリブ」(同・銀座)で料理長を務める。2010年4月故郷の熊本で「ショコラ カフェビストロ」を開業。

 

今いる場所から、

できる支援を。

それは、1本のブログからはじまった。

4月14日、16日と2度の大きな地震後、先の見えない休業期間に入った「ショコラ カフェビストロ」。オーナーシェフの宮本智久さんは「何しろ初めての経験で、どうしたらいいか分からなかった」と地震直後の心境を語る。

店があるのは、個性的なセレクトショップが多く、若者でにぎわうシャワー通りエリア。店舗自体に大きな被害はなかったものの、水道やガスが止まり、営業再開のめどは立たない。家賃やスタッフの人件費など固定費は変わらないのに収入が途絶え、この先どうなるのか……。

プライベートでも、余震を警戒して家族とともに車中泊の生活が続き、先行きに不安が募る一方だった本震2日後の4月18日。あるニュースが宮本さんの目に止まった。

通販の看板商品が

経営を救った

玉ねぎのジャムと馬肉のサルシッチャ

避難所となっていた高校の校庭に、生徒がいすを並べて空から見えるように「SOS」を訴えたところ、あっという間に物資が届いたというニュースをテレビで見たんです。「これだ」と思いました。

ちょうど僕は、2〜3年前から保存食の通販をはじめていました。熊本産の玉ねぎを使った料理向けのジャムと、馬肉のコンビーフサルシッチャの2品が看板商品。そこで店のブログに「SOS」と題して投稿し、店の窮状を訴え、この2つを買ってくださいと呼びかけたんです。

すると、友人をはじめ、皆さんが積極的に拡散してくれたおかげで、通常数十アクセスしかないブログが、なんと2000アクセスを記録。18日から19日の2日間で200件の注文をいただくことができたんです。ジャム1瓶の方もいれば、ジャムとサルシッチャ20点ずつという大口のご注文も。前例のない大量の受注でしたが、「時間はかかりますが、必ず発送いたします」とご連絡すると、快くOKしてくださいました。仕込みの関係で発送完了に6月までかかりましたが、一つもクレームなく無事に対応できたのが何よりでした。

実店舗のほうは5月1日まで休業。2日から店を開けたものの、もともとこの店は女性のお客さまが多いこともあり、まだ街中で夜に食事をしようという気持ちは弱いようです。5月中は、夜は開店休業状態でしたね。ようやく予約が入りはじめたのも、6月に入ってから。売上げは、やはり相当落ち込みました。しかし物販でその落ち込みをほぼカバーすることができたのは、本当にありがたかったです。

割れないように毛布を敷いて

遠くからでも

できる支援

炊き出し

こうしてネット上でSOSを呼びかけたことにより、窮地をしのいだ宮本さん。別の投稿では、支援物資の募集にも多くの反応があり、「距離が離れていても気持ちは一つ。別の場所にいるからこそ、助けてもらえることもある」と、地震対応を通して学んだという。

その成功例として宮本さんが挙げるのが、「熊本食材を使った北陸チャリティレストランin金沢」。宮本さんの友人、牧野浩和さん(石川・金沢「レストランMakino」)が中心となり、震災後わずか1か月後の5月22日に実現したイベントだ。

最初に牧野くんが電話をくれたのは、4月20日ごろ。僕のブログを読んで状況を知り、「必要な物資はありませんか」「熊本に行って手伝いたい」と言ってくれました。牧野くんは、東京での修業時代の後輩。当時とはうってかわって(笑)、すっかり熱い男になったなあと、その気持が本当に嬉しかった。でも、熊本はもともと農業が盛んな土地ですから、食材は案外近くで供給できるものも多い。その頃には物流も回復し、むしろ支援物資の受け入れに手が回らずに麻痺している状態だったんです。

人手の面でも、むしろ金沢にいてこそ、お願いできる支援もあるんじゃないかと。また僕の店だけでなく、熊本全体の支援につながるような行動ができないかと、電話で話し合いました。

それで牧野くんと西川開人さんというパティシエさんが中心となり、僕のジャムやサルシッチャを含め、熊本食材を使った1日限りのレストランという企画を立ち上げてくれたんです。

熊本食材を使った

1日レストラン

石川「ぶどうの木シノワ」チャリティレストラン

結果的に、20以上の飲食店、その他の賛助団体も含めると120以上の組織が手を挙げてくれて、1日に3部で各100人、合計300人というお客さまを集める一大イベントになりました。予想以上の規模に僕のほうが驚きましたが、瞬く間に300席の予約が埋まったそうです。

東京でも、かつての先輩の企画で同様のチャリティイベントをしてくれました。遠い地にありながら、お客さまの側でも「何かしたい」という思いを持っていてくださるものだと、本当に嬉しく感じました。

料理人が全国で

助け合う仕組みを

これらのチャリティレストランの成功を受け、宮本さんがいま思い描いていることがある。それは、料理店同士がゆるやかにつながる、全国規模のセーフティネット。

今回つくづく思ったのは、ひとたび地震のような天災に見舞われたら、どんなに自店だけで備えをしていても、無力だなあということ。地震直後の戸惑いのなか、東京や金沢のチャリティレストランはじめ、他県の皆さんの動きにどれだけ助けてもらったか分かりません。

一方で、一人一人のできることは小さくても、思いを一つにして自分のできることを持ち寄れば大きなパワーになるんだという希望も与えられました。僕ら料理人ができることは、やっぱり料理。北陸で実現したようなチャリティレストランを、組織的に、継続的にできるNPO法人のような組織ができないものかと考えています。

義援金や募金もありがたいですが、チャリティとはいえ、お客さまにも楽しくおいしく食べていただいて、それが支援にもつながるという参加型チャリティのほうが、双方に無理がなく、全体が潤うように感じます。結果的に、そのほうが支援も長続きするのかなあと。また、他の場所で同様の災害が起こったときに、今度は僕らのほうからも何か力になれるような受け皿が、平時からあったらいいと思うんです。

ふるさとを

みずから守るために

“参加型支援”への思いを自店でかたちにしたのが、6月初旬、「カフェビストロ ショコラ」の店内で行われた阿蘇・西原応援マルシェだ。地震後、観光客が激減している同エリアの飲食店、菓子店の商品を店の一角で販売することにしたのだ。

阿蘇にも営業再開しているお店は、じつはたくさんあります。でも現実には、特に遠方のお客さまは、なかなか実際に足を運んで消費するまでには至らない。ならばせめて、僕らの店で阿蘇や西原のお店のものを販売したら、少しは収益の助けになるんじゃないかと思ってマルシェというかたちを考えたんです。出品のお声がけをするだけでも喜んでいただけましたし、最終的には10店で20万円をこえる売上げがあがり、まずは成功ととらえています。

僕は、金沢のイベントの収益の一部を「熊本のために」と預かっています。これを、また別のかたちで阿蘇・西原エリア復興のために使っていきたい。熊本市内では徐々に日常が戻ってきた今こそ、僕らがここまで全国の方々に助けていただいたように、次は地元のお店を自分たちで支えていかないと。僕一人ができるのは小さなことですが、みんなで力を合わせ、ふるさとを守りたいと思っています。

取材・文/坂根涼子

 

店舗情報

店舗

ショコラ カフェビストロ

熊本市中央区下通2-5-10

シャワーサイドテラス1F

TEL: 096-355-3157

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