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【最終回】10.重光悦枝さん(味千ラーメン)

プロフィール

日本料理 おく村 奥村賢さん

熊本市生まれ。父は「味千ラーメン」創業者。大学卒業後、地元ラジオ局のキャスターとして活躍。その後単身渡米し、NYの大学でホテル・レストラン経営を学ぶ。父の急病を受け、1996年熊本に戻り、味千ラーメンチェーン本部である重光産業㈱に入社。国内84店、海外684店を展開する企業の副社長として「食を通じてアジアと日本の懸け橋になること」を目標に、月の半分は国内外を回りながら味千ラーメンのグローバル化に励む。

 

「元気な熊本」を、

世界へ。

にんにくのきいた豚骨スープにストレート麺。「味千ラーメン」は、熊本ラーメンを看板に、1968年熊本市内に創業したラーメンチェーン。赤いチャイナドレス姿でラーメンを手に微笑む「チイちゃん」は、熊本県民なら誰しも目にしたことがある名物キャラクターだ。72年にはチェーン本部として重光産業㈱を設立し、本格的な多店舗化に着手。2016年5月現在、熊本県内56店を含む国内84店、海外684店を展開する。

地震当日から

炊き出しに

約50年にわたって熊本県民に愛されてきた地元密着企業だからこそ、「有事にすぐに対応できた」と、重光産業・副社長の重光悦枝さんは話す。

14日の時点で、熊本市の東隣、益城町の大変な被害を耳にしました。我々の本社は熊本市の東端にありますので、益城はすぐそば。そこで社員は店舗復旧チームと炊き出しチームに分かれ、15日には、各店舗の復旧作業と並行して炊き出し準備を進めていました。16日未明にはいわゆる本震があったわけですが、それでもみんな集まり、同日9時には益城に到着して10時からラーメンの提供をスタートすることができたのです。

16日の時点では、皆さん、着の身着のまま避難所にいらしていたでしょうし、水も整理券がないと配布されないという状況。この先食べるものがあるのだろうかという恐怖感のなか、温かな1杯に本当に喜んでいただきました。

こうしてすぐに現地で動くことが許されたのは、地元の皆さんがよく知ってくださっている地域密着企業だからだとは思います。ただ、味千ラーメンにはもともと炊き出しの伝統があるんですよ。一番はじめは、1997年の阪神淡路大震災のとき。また、2011年の東日本大震災の際には、4月中の3週間、社員が入れ替わり立ち替わり東北各地を訪れて支援を行いました。

創業40周年にあたる2008年には、社員の有志で「ラーメン出前隊」を結成し、定期的に福祉施設に出張してきました。親元を離れて暮らすお子さんやご高齢者、障がい者など、ふだんなかなか外食はできない方々に、店舗でご提供するのと同じ、できたてのラーメンを食べていただきたい。そんな思いからはじめた活動でしたが、こうして普段から社内にボランティア精神が醸成されていたことも、迅速な炊き出しへの行動につながったと思っています。

特設サイトに

情報を集約

炊き出しは、4月16日から5月3日のうち16日間実施した。同系列のラーメンブランド「桂花ラーメン」もあわせると約1万食を無償で提供したという。18日にはSNSのフェイスブック上に「味千ラーメン熊本地震サイト」という特設アカウントを立ち上げ、炊き出しの場所や配布杯数を告知するほか、支援要請の受け皿としても活用した。

地震直後、SNS上では情報が錯綜していて、私たちも「どこで、何が必要なのか」が正確にはわからない状況でした。特設サイトを立ち上げたところ、たとえば指定避難所ではないけれど、消防団詰所に何人も避難しているとか、自宅は住める状態だけれども食べ物がないなどのご連絡をいただくことができたのです。詳しい状況と場所が把握でき、より効率的に動けるようになりました。

一方で、避難所で生活されている方以外にも炊き出しの情報が届けばと思い、この特設サイトで炊き出しの日程や規模の告知もしていました。ただ4月末には営業を再開する飲食店が増えてきたため、営業のお邪魔にならないように炊き出しも終了させていきました。

炊き出し期間中は、小学生や中学生のボランティアさんも手伝ってくれたんですよ。結構きつい仕事だったと思いますが、まかないの大盛りラーメンも励みになったようで(笑)、飽きずに手伝ってくれました。16日間、ほぼ毎日手伝ってくれた中学生もいます。私たちも助かりましたが、「自分たちでも、役に立てた」という彼らの喜びにもつながり、これも一つの支援のかたちだったかなと思っています。

工場の生産を

必死で確保

もちろん、味千ラーメン自体が無傷だったわけではない。国内全店舗のスープと麺の製造を担う熊本県内の2工場のうち、西原工場は壊滅的な被害を受けて立ち入り禁止に。残る戸島工場では、県外28店舗に向けた物流をまかなうべく不眠不休の作業が続いた。

西原工場は、活断層の近くに立地していたこともあり、地割れで壊滅状態でした。じつは、地震の前から2つの工場を統合し、生産規模を倍増させた新工場設立の予定がありましたので、西原工場では生産をほぼ終える寸前だったのが不幸中の幸いでした。

一方の戸島工場でもライフラインは一時ストップしてしまったのですが、何の被害もない県外のお店まで営業できなくなることだけは避けなければと。とにかく必死で1ラインだけでも確保しようと、集中的に機材を復旧させました。スープや麺の製造に必要な水はくめるところから大型ポリタンクで運び、ラインが減ったぶん24時間操業で生産にあたり、なんとか必要なだけの生産量にこぎつけました。

高速、電車、飛行機すべて止まっているわけですから、出荷も一苦労でしたね。福岡県からは通常の物流が機能していたので、久留米にある味千ラーメンの店舗を拠点に決めて、熊本からは県外店舗用の麺とスープを一般道で搬送しました。逆に県外からの支援物資も、やはり久留米店に送っていただくように告知。熊本〜久留米間では、麺を積んで行った車が、帰りは支援物資を積んで戻るということを繰り返しました。

熊本県内の店舗では、14日は一部休業で乗り切ったものの、16日以降は全店休業を余儀なくされた。比較的被害の少なかった熊本市の本店も、4月16日〜24日は休業。震源地に近い西原店では、店のガラスが割れ、柱が倒れるなど大規模半壊レベルの被害があり、5月いっぱい懸命の復旧作業が続いた。

本店では、建物に被害はありませんでしたが、14日の地震で店の内装の主役だったレトロなシャンデリアが落ちそうになってしまったんです。落ちたら客席も大変なことになってしまうと慌てて、15日は休業して業者さんに取り外していただきました。私たちも割れた丼を片付けて、「これで明日からは営業できるね」と喜んでいたら、16日の本震がきて休業せざるを得ませんでした。

もっと大きな被害のあった店もたくさんあります。でも各店スタッフが本当に頑張って復活を果たしてくれ、被害の大きかった西原店も6月1日に営業再開することができました。施設全体が営業を制限していたイオンモール内の店舗が7月20日再開したことで、ようやく全店の営業再開が果たせました。

とはいえ、社員のなかには、益城の住民もたくさんいます。7月末に仮設住宅に入居できるまでは、避難所から店に通っていたスタッフもいました。みんな生活を再建しながら仕事をしているので、なかなか普段通りの営業時間でというわけにはいきません。こうした営業面でのマイナスも考えると、被害の総額は正直なところまだ試算もでないという状況です。

また大きな地震が夜に続いたこと、時間短縮営業の影響もあり、お客さまもやはり夜間のご利用は控えていらっしゃる印象でした。ただ、昼はおかげさまでたくさんの応援をいただき、ありがたい限りです。さまざまな困難はありますが、8月からは全店で従来通りの営業をして、お客さまに喜んでいただきたいと気を引き締め直しています。

熊本の魅力を

世界へ!

2018年には創業50周年を迎える味千ラーメン。長年にわたって愛されてきた地元企業として、さらには世界に羽ばたくラーメンチェーンとして、今後も息の長い復興への取り組みを続けていきたいと重光さんは言う。

味千ラーメンの海外店舗数は、じつは外食企業としては日本一です。そのことが熊本の皆さんの誇りや励みになれば、これほど嬉しいことはありません。

今回の地震をうけ、海外のパートナーも本当に心配してくれ、すぐに義援金を送ってきてくれました。またフィリピンやシンガポールのパートナーは、4月の売上げの一部を熊本への支援金として送ってくれました。

こういう天災がきっかけとはいえ、熊本という場所の知名度が高まったことは事実。海外の味千ラーメンのお客さまにも、ぜひ復興している熊本を見に来ていただきたいねと、店舗を使った観光誘致キャンペーンも計画中です。そのときは、ぜひくまモンにも手伝ってもらって、「チイちゃん」とコラボで(笑)。

震災を受け、通販サイトでは、味千ラーメンと桂花ラーメンを一箱に詰め合わせて販売し、売上げの一部を寄付するという企画商品も登場させました。これも一過性の支援に終わらせず、長く続けていきたいと思います。

もちろん、私たちも多かれ少なかれ被災者です。ですが、何があってもしっかりと立ち上がり、復興している姿を見せることも地元企業の務めだと思います。とにかく平常通りに店舗を営業すること。そして、予定していた新工場建設を今年中に完了させること。自社として行う一つひとつの取り組みも、地元経済を活気づける一助となっていくことを願っています。

ようやく地震対応がひと区切りつきましたので、次には創業50周年に向け、「熊本は元気です!」とそのパワーと魅力をアピールすべく、いま皆さんと計画を練っているところです。熊本が少しでもより良いかたちで復興し、元気になるように。これからも、地元の皆さんとともに歩む味千ラーメンであり続けたいと思っています。

取材・文/坂根涼子

 

店舗情報

店舗

味千ラーメン 本店

熊本市中央区水前寺6-20-24

TEL: 096-384-4433

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